水龍士I 復刻版
内容紹介
豊かな水に恵まれ、古代から、人々は水とともに生活し、文化や経済を紡いできていた。
中でも「霊水」と呼ばれる、スピリチュアルなパワーを秘めた水の発見は、歴史に大きな意味をもたらす。
その研究の中で、「水」が記憶を宿すこと、そして、水と精神の波動を同調させることで、水と語り合えることが証明されたのだ。
そして、「水」に溶け込んだ「生命力」「情報」「破壊力」などを引き出す媒体として、「霊水」を活用する体系が築かれていった。「水術」の始まりである。
ある日、「水術」の技を高いレベルで身につけた術士夫婦が、極限まで清めた「霊水」を使い、とある天界の神格を降臨させた。
それが、ソルティアの守り主であり、水の神でもある「大水龍」であった。
偉大な神力と存在感を前に、「水術」は信仰とも深く結びつくことになる。
人々は「水術士」たちに、普段使いの「水」を清めてもらったり、冠婚葬祭を依頼するとともに、心のよりどころとして尊敬するようになり、中でも「大水龍」と波動を同調させられる者たちは「水龍士」(すいりゅうし)と呼ばれ、何世代もの間、ソルティアの信仰と文化において、大きな役割を担うこととなった。
「大水龍」の加護のもと、ソルティアは栄えた。
「水」と同じく、様々な人種、階級、価値観を溶かし込み…豊かで寛容で多様性に満ちた社会が、多くの人々の人生に、安心と希望を与えていた。
…そのうち、そんな、おおらかな社会に溶け込まぬ者も現れ始める。
確たる信念を持ち、馴れ合わぬ者たち…
初めのうち、そんな生き方を選ぶ者の多くは、「孤高なる者」として、やはり人々に尊重された。
新しい視点での発言。
「あたりまえ」に埋もれて忘れ去られた、深い意味の探求。
それは、普通に生活する者たちにとっても、心を揺さぶるものだったからだ。
…だが、時が経つにつれ、「孤高なる者」の中から、その名前に反して徒党を組むグループが現れ始め、一部の「水術士」たちと良からぬ企みを始めた。
その術士たちは、厳格な「水術」の運用と階級に不満を持ち、自ら手にした「霊水」の力を、より奔放に…あるいは、より自分自身のために使いたいと願っていたのだ。
そんな動きが、時には満ち、時には引き…
表面上の普段通りの生活の影で、我欲や権力や暴力への欲望が、密かにソルティア全体の足もとを、長い時間をかけて腐らせていった…
そして、ある夏の夜、それは突然起こった。
神殿に降臨し、「龍水」の体に宿った「大水龍」が、数名の黒き「水術士」たちによって、文字通り‘打ち砕かれた’のだ!
飛び散った「龍水」は、国じゅうにばらまかれ、龍の神の姿は消えた。
ソルティアは、そこから、私欲と偏狭な権威がはびこる国へと転落の一途をたどる…
それから1000年の時が経ち、 国の南東にあるルルアの町で、つい2日前に病で母親を失い、天涯孤独となった、あなたがいた。
あなたには、生活のすべがなかった。
畑仕事の手伝いで、多少の腕力があるあなたは、「刺水人」(しすいにん)になることを決心していた。
「刺水人」とは、悪水生物を倒して、手に入れた「霊水」を売ることで生計を立てる者たちのことだ。
なんとなく憧れていた「水術士」になることも考えたが、アシュラム(「水術士」の修行施設)への入学金も手元にない。
子どもの頃、両親が耕していた畑は悪水に犯され、残された財産らしきものもない。
ただひとつ残されたのが、何か液体の入った水晶のペンダント。
1週間ほど前のこと、死期を悟った母親から、あなたは不思議な話を聞かされていた。
「私が死んだら、そのペンダントを、うちの井戸に投げ込みなさい。」と…
その日の夜、母を失った哀しみや将来への不安で、思考回路が止まってしまったような状態のまま、あなたは遺言を実行した。
ポチャン!
そう深くない井戸の水面から小さな音が響く。
これは、一体、なんの儀式なんだろう?
働かない頭のまま、10秒ほどが経っただろうか?
真っ暗な井戸の底から、不意に清らかな青い光が点滅を始めた!
慌てて井戸に降り、水に潜るあなた!
井戸の底には、投げ入れたペンダントと、その横の壁のくぼみで光を放つ、青い小さな袋が見つかった。
そして、母がまだ元気だった頃に書かれたらしい手紙の入った、完璧に防水された大理石の器れ物も…
手紙には、家系の女たちだけに伝えられたという、信じがたい物語が綴られていた。
1000年前に起こったという「大水龍」の受難と、飛び散った「龍水」のこと…
光を放った『青き袋』は、「水術士」たちが「霊水」を入れるのに使う『水術泉』(すいじゅつせん)を改良して作られた、「龍水」に反応して輝く特別なものだということ…
そして、あなた自身が、この『青き袋』を作り、国じゅうに散らばった「龍水」を集め、「大水龍」の復活を願った、古の「水術士」の末裔だと言うこと…
「…つまり、この袋が光ったってことは、このペンダントには『龍水』が入っているってことなのか…」
今も、目の前で点滅を繰り返す『青き袋』の口を少し開けると、あなたは、ペンダントの金具をはずして、中の液体を注ぎ込んでみた。
…すると、袋は満足したかのように、点滅を終わらせた。
「驚いたな…」
普通なら、こんな話、信じるはずもない。
だが、孤独になって混乱しているからなのか…
あるいは、さっきの清らかな青い光の点滅が、あなたの心に影響を及ぼしたのか…
あなたは不思議と、母からの手紙を信じる気持ちになっていた。
「ぼくに、『龍水』を集めろってことか…」
その言葉は、誰かに聞かせると言うよりは、自分自身の決意への確認だった。
気がつけば、窓の外の空は、そろそろ白み始めていた。
凜とした朝の空気が、あなたの気持ちを引き締める。
しばらくは「刺水人」としてお金を貯めながら、「水術士」になって「龍水」探しの旅だな。
…あ、その前に、店で武器のひとつも買わないと…
あなたの頭が、急に回転し始めた。
ついさっきまでのぼんやりした気分は、新しい目標を見据えたことで、前向きな決意へと変わっている。
日の出とともに身支度をととのえると、あなたは、長い旅の始まりの第一歩を踏み出した。